LAN配線
Cat6Aは過剰か?施工者が語る“安心と信頼”のLAN配線”
2025年10月6日
LAN配線
1. 導入:Cat6Aは“過剰”なのか?指定された仕様に向き合う施工者の視点
LANケーブルの増設工事を依頼された際、施主から指定されたのはCat6A。高性能な規格であることは理解していましたが、施工者として「本当にCat6Aが最適解なのか?」という疑問が頭をよぎりました。コスト、施工性、必要性能──現場で向き合うべき要素は多岐にわたります。
このブログでは、指定されたCat6Aに対して施工者としてどう向き合ったか、そして技術的な整理や実務判断を共有します。読者の皆さんがLAN配線を検討する際の判断材料となれば幸いです。
2. Cat6Aの性能と構造の理解
📶 通信性能の比較:Cat6 vs Cat6A
規格 | 最大通信速度 | 周波数帯域 | 推奨最大距離(10Gbps) |
---|---|---|---|
Cat6 | 最大1Gbps(10Gbpsは短距離のみ) | 250MHz | 約55m(条件付き) |
Cat6A | 最大10Gbps | 500MHz | 最大100m |
Cat6は一般的なオフィスや家庭用途で広く使われていますが、10Gbps通信を安定して行うには距離やノイズ環境に制限があります。一方、Cat6Aは500MHzの広帯域により、10Gbps通信を最大100mまで安定して実現できるため、将来的な拡張性や安心感が大きく異なります。
🛡 構造的特徴とノイズ耐性
- 十字介在物の役割(Cat6/Cat6A共通):ツイストペア同士の物理的な分離を保ち、クロストーク(隣接ペア間の干渉)を低減する効果があります。これにより、通信品質の安定性が向上し、特に高周波帯域での性能維持に貢献します。
- Cat6AのF/UTP構造:十字介在に加え、全体にフォイルシールドが施されているため、外来ノイズに強く、通信品質がさらに安定。
- Cat6のUTP構造:十字介在はあるものの、シールドがないため、外部ノイズ環境によっては通信品質に影響を受けやすい。
シールドプラグ+アース処理の意義
Cat6Aを採用する場合、シールドプラグと適切なアース処理を組み合わせることで、電源系統が近い環境でもノイズの影響を最小限に抑えることが可能です。特に事務所や工場など、電源機器が密集する環境ではこの構成が信頼性を高めます。
このように、Cat6Aは「過剰」ではなく「安心と信頼を届ける選択肢」として、特にノイズ環境や将来の通信需要を見据えた施工において有効です。
シールドプラグとは?
シールドプラグとは、LANケーブルの端子部分(RJ45プラグ)に金属製の遮蔽構造を持たせたものです。通常のプラスチック製プラグとは異なり、ケーブルのシールドと一体化することで、外部ノイズの侵入を防ぎます。
この構造により、ケーブル全体のシールド性能が端末まで一貫して機能し、アース処理と組み合わせることで不要な電位差やノイズを地面に逃がすことが可能になります。特に電源機器が密集する環境では、通信エラーの低減や安定性の向上に寄与し、施工信頼性を高める重要な要素となります。
3. 施工者としての気づきと判断
- Cat6ケーブルの配線経路とノイズの影響:Cat6ケーブルは十字介在物によってクロストークには一定の耐性がありますが、シールドがないため外部ノイズには弱い構造です。特に以下のような環境では、ケーブルが周囲の電気機器から発生する電磁波を拾いやすくなります:
- 電源ケーブルや蛍光灯の安定器など、強い電磁波を発する機器の近くをLANケーブルが並走している場合
- 配線ダクトやラック内で電源線と通信線が密集している場合
- 工場や研究所、事務所などでモーターやインバーター機器が稼働している環境
- 非シールドプラグでの成端:コストや施工性の面で選ばれることもありますが、ノイズ耐性には注意が必要です。非シールドプラグの部分からノイズが入りやすく、特に電源ケーブルや電子機器がプラグに近接する環境では、そこから発生した電磁ノイズがLANケーブルに干渉する可能性があります。こうした状況では、ノイズ耐性のあるフォイルシールドケーブルを使用していても、非シールドプラグによって末端でシールドが途切れ、ノイズが通信線に乗ってしまうことがあります。結果として、以下のような通信障害が発生することがあります:
- 通信速度の低下やパケットロス
- 接続の瞬断や不安定なリンク状態
- IP電話や監視カメラなど、リアルタイム通信の品質劣化
- スイッチングハブのアース接続:片側接地でも一定のノイズ抑制効果があり、実務的には合理的な選択。
- グランドループの懸念:両端接地によるノイズの流入リスクを避けるため、片側接地を基本方針とした。
4. グランドループの仕組みと接地構成の違い
両端接地 vs 片側接地のメリット・デメリット
・両端接地はシールドが両端で確実に接地されるため、ノイズの遮断効果が高い
・ケーブル全体のシールド性能を最大限に活かせる。グランドループが発生しやすく、ノイズが逆に流入するリスクがある
・グランドループによる通信障害や機器故障の原因になることも。片側接地はグランドループのリスクを低減し、ノイズの流入を防ぎやすい
・実務的に施工が簡単で安定した通信が得やすい。シールドの効果が片側のみとなるため、両端接地に比べてノイズ遮断性能はやや劣る
・長距離やノイズ環境が非常に厳しい場合は注意が必要
ノイズの流れと遮断のイメージ
両端接地では、ケーブルのシールドが両端で接地されるため、電位差が生じるとグランドループが形成され、ノイズが逆流することがあります。一方、片側接地では一方の端のみ接地されるため、グランドループの形成が抑制され、ノイズの流入リスクが低減されます。
実務での推奨構成
現場では、片側接地とシールドプラグの組み合わせが、ノイズ対策として最も信頼性が高いとされています。これにより、グランドループのリスクを抑えつつ、シールドの効果を最大限に活かすことが可能です。
5. 総括:Cat6Aは“安心して提案できる選択肢”
「Cat6Aは過剰かもしれない」──その声に、施工者としてどう向き合うか。今回の施工では施主の指定によりCat6Aを採用しましたが、実際に施工を進める中で得られた知見から、Cat6Aは“安心と信頼”を届けるうえでベターな選択肢であると感じました。
通信品質、将来性、施工信頼性のバランスを考えたとき、Cat6Aは事務所環境において費用対効果の高い選択肢でした。今後も、現場での気づきや学びを共有しながら、より良い施工を目指していきたいと思います。